俺は4時15分。

バッキー・イノウエとワイワイナワイモ。

さあ行こうぜ、時代と逆行する、 スナックの世界へ。

 編集者からスナックの特集をやろうと思っていますと聞いた時に、な 
んで今頃スナックなんだろうと正直思った。街の特集の中のイロモノ的な感じで 
2、3ページ紹介するならわかるが丸ごとの特集ってどうなんだろうと考えた。 
しかもこのメンズ・ハナコという名前のこの雑誌で。
 けれども目を回しながら輝く青年編集者と何回も飲んで付き合っているので、 
彼が作る彼の世代のスナック特集の出来上がりを見たいなと反射的に思った。素 
敵なスナックの世界が時代と遠くなりすぎたから諦めていたら、彼が俺のグラス 
の前に赤と黒のベタなスナックのマッチをおもむろに置いて「さあ行きましょう 
よ」と宣言した感じだ。

そこが磯辺の潮だまりなら、
あえて俺はそこに行きたい。

 俺も十年くらい前までは「カラオケボックスではなくスナックに行く方がゴキ 
ゲンだ」と、いたるところで地団駄のタップを踏みながら泣きながら書いていた 
けれど、時代はどんどん「無菌状態歓迎指向」あるいは「予定通り小満足指向」 
が進み、スナック的なものはまさに磯辺の潮だまりに追いやられていった。本当 
は潮だまりこそ生態系の宝庫なのでとても誇らしいことなんだけど。

スナックを昭和的というだけで、
すませてはいけないと思う。

 50年以上前の「洋酒天国」という冊子(寿屋の洋酒チェーン加盟のサント 
リーバー・トリスバーへの来店促進のための無料配布誌。編集発行人が開高健で 
毎号特集やデザインに新しい試みがあり、随所に柳原良平のイラストがある 
ウィットのきいた冊子。当時、山口瞳も編集部にいた)に「スナック」という単 
語が出てきていたので1950年代からあったと思うが、今ここでいう街のス 
ナックは、70年代初めにカラオケとともにパアーッと増えた比較的小さな店で 
そこに歌と洋酒がある酒場。カテゴライズなどする必要はないが、歌と洋酒とマ 
マがいる小さな酒場でいいと思う。
 俺がハタチぐらいの頃はひとつのビルが50軒くらいのスナックでビッシリと 
埋まっていることも珍しくなかったし、そんなビルが京都でもたくさんあった。 
あの頃なぜあんなにスナックがあったのだろう。今思うと不思議で仕方がない。66
 その当時も今も思っているけれどスナックに行けば、その雰囲気に従わねばな 
らない。
 決まったルールではなく雰囲気に従うことこそスナックの醍醐味のひとつなの 
だ。