俺は4時15分。

バッキー・イノウエとワイワイナワイモ。

店選びは勝負である。

   漬物の販売で東京や大阪や地方の都市に行くことがある。商談だけの場合もあれば百貨店の催事場で販売させてもらうこともある。その催事の場合、その日の仕事が終わってからどうするかが私の場合は懸案事項のひとつ。
   催事の期間はほとんどが1週間で、業者は開催前日にそこへ行って売場作りをすることが多い。いわゆる設営という仕事。催事が始まると出店者同士や主催者と終わってから食事をしたりすることもあるが設営の夜は時間がまちまちなのでたいてい一人になる。疲れ果てて弁当を買って宿で食べることもあるが、この街のこの時間にどこに行けばいいのかを考えることに若い頃から打ち込んできた私にとってそれはその日の勝負どころと言っても過言ではない。
   十年ほど前からネットでの店情報サイトや書き込みサイトがあるが、その場その時の店選びを武道というか技芸のようにとらえてきた私はスマホタブロイドでサイトを見て店選びをすることが出来ないでいる。けったいな中年だ。
   先日、催事で宇都宮に行っていて例によって設営のあとひとりで街に出た。早い時間だったので店の選択肢が多いのでうれしくなった。
   駅前を歩くとどこの都市にも必ずあるような多くの飲食店が立地のいいビルに入っている。そんな見慣れた景色を通り過ぎてぶらぶら歩く。目標はないが目的はある。偶然に店と出会いたいのだ。それがいい店ならありがたいが、そうでなくてもかまわない。街を歩いて「ここに入ろう」と思う何かがあればそれだけでいい。誰かと一緒なら適当なところにシュッと入るが、ひとりの時は結構ピクピクくるまで歩く。
   宇都宮での初日に入った店で嬉しくて私はツイッターにこんな投稿をしている。
“宇都宮に仕事で来て、仕事が終わってひとりでぶらっと居酒屋に入ったら抜群の店だった。名倉山という会津の酒の熱燗をもらう。鯵の刺身と”
“携帯やらタブレットで何も調べなかったことに対するご褒美のような、俺がこの街に住んでいれば通っていたかのような居酒屋だ”
“いかってる小ぶりのアジ1匹分の刺身、たっぷりのおろしたての生姜。山盛りのネギ。酒は三百円。テレビがありカウンターの中はどうやらファミリーのようだ”
“もしネットやらで店を調べていたら俺はここには来れなかった。次に俺が来るときも決して予約はしないだろう。俺はたぶんこの店を死ぬまで忘れないと思う。宇都宮ごと好きになったほどだ。けれどもこの店を調べて来ていたら、そうはならなかったとおもう”