俺は4時15分。

バッキー・イノウエとワイワイナワイモ。

たまらんものが目白ギュウギュウ詰めの季節。



 いよいよ十一月だ。だんだん寒くなるとともにたまらんものが目白押しになってやってくる。
9月に入ってからはフグ屋が二三ヶ月ぶりに営業を再開したし、市場では安くて美味しい紅ズワイガニが手に入る。
10月になれば牡蠣が出てきて行く店や飲む物を迷わせ、店の湯気が恋しくなってくる今頃には、わずかな期間だけ交差する脂乗るハモと松茸が土瓶蒸しの口から湯気を出して熱燗を誘っている。
 そして11月になると松葉ガニが解禁されコッペ(セコガニ、松葉のメス)がしおらしくなって現れる。出だしこそコッペも高いがちょっとすると小ぶりのものは安くなる。三杯で千円くらいで買える時もある。
 俺が子供の頃、ツレの家に行けばオヤツのように食べさせてもらえた。床に新聞紙を敷いてコッペを何人かで手で剥いて食べていた。
 カニの話で脱線するが、NHKを見ていたら深海の底に絨毯を敷いたようにカニでビッシリと海の底がうまっている映像を見たことがある。その時にカニをもっと食べさせてもらおうと思った。
それからムキになってカニを食べているときにカニを見るとその顔は怒っていた。
カニの話ばかりしていられない、寒くなればナマコがおいしくなってくる。「うまいナマコは冬至を過ぎてから」ともいうが、コノワタ生まれナマコ育ちの俺の場合は冬至まで待っていられない。
 そして12月になればさらにたまらんものが目白ギュウギュウ押し詰めになる。
 まずは奇想天外に旨い「丸新」や「丸京」製のコノワタがでる。これを毎年、シーズンの最初にいただく時には、将棋の羽生善治名人が勝ちを確信した時に指が震えるように箸を持つ俺の手も震えるのだ。コノワタにはいつも負けているのにどういうことだろう。
 師走、いわゆる年の瀬はもう美味しいものが百花繚乱。汐鱈が出る、ゴロンとした上賀茂のすぐきが樽に並ぶ、雲子が出る、ボテッとしたフグの白子が市場に並び、街の店々は暖簾から湯気を出している。

 この連載のコラムのテーマは実は湯気なんです。店や街だけではなく家の湯気も含めて、湯気はシアワセの象徴だと思う。湯気のあるところは必ず誰かいるしそこは乾いていない。心地よい寒さはあってもそこは冷たくないf:id:vackey:20141104171026j:plain